闇夜に笑まひの風花を

ダメよ。
ダメよ。
だめよ。
私は、あなたを受け入れるわけにはいかないの。
あなたの想いに応えるわけにはいかないの。

好きよ、好きよ。
愛してる。
あなたのこと、こんなにも好きなのに。

あなたの想いに、応えるわけにはいかないの。

「……っ、はる……っ!」

ごめんなさい。
私は、あなたを不幸にしてしまう。
幸せな未来の望めない私の世界に、あなたを連れ込むわけにはいかないの。

「はるぅ……!!」

杏は両手で顔を覆った。
辛くて、切なくて、どうにかなってしまいそう。

もし、私があなたを受け入れても、きっと殿下は許さない。
私があなたに愛されることを許さない。
万が一に子供でもできたら、きっと殺される。
子供とあなたと殺される。

一度幸せを知ってしまったら、私はもう耐えられない。

「……は、る……っ!」

ごめんなさい。
ごめんなさい。
弱虫でごめんなさい。
意気地なしでごめんなさい。

でも、あなたには幸せになってほしいの。
巻き込みたくないのよ。

好きよ。
大好きよ。
愛してる。

きっと、私には一生の恋。

こんな想い、忘れられるわけがないのに。

「杏……?
なんで、そんな声で呼ぶんだよ?」

切なくて、哀しくて、聞いているだけで胸がいっぱいになるような。
泣き出したくなるような、そんな声で。
何度も何度も、遥を呼ぶ。

まるで、言えない想いの代わりのように。

「なんで、そんなに泣くんだよ……?」

幾ら口を開いても、拒絶の言葉はどうしても声にはならなかった。
嘘は、つけなかった。

嗚咽の合間に絞り出せるのは、彼の名前だけ。
好き、とは言えないから。

「……はるっ!」

ガクリ、と膝の力が抜けて庭に膝を着く……前に、遥に支えられて膝を擦りむかずに座らされた。

「杏……、独りで泣くなよ……」

遥が杏の掌をズラして顔を覗こうとしても、彼女は頑として譲らなかった。
そして、何度も首を左右に振る。

遥は、そんな彼女を座り込んで抱き締めた。
細い肩を、身体を震わせて、泣く杏。
どうして彼女がこんなにも泣いているのか、遥には分からなかった。

それでも愛しくて、ひどく切なくて、目頭が熱くなるのを感じながら、遥は彼女の髪にキスをした。
髪に、額に、こめかみに、顔を覆う指に、キスを降らせる。
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