トマトときゅうり
罪な笑顔。
「根性みせろよ!!!」
バシンっと強烈な音を立てて、霧島部長が机を叩いた。
事務所内の空気が一瞬にして冷える。
私は自席で思わず首をすくめる。止まってしまったキーボードの上の手を慌てて動かした。
朝礼での部長の叱責や激励は毎日のことにしても、未だに慣れない私は、怒鳴り声が聞こえる度にビクビクしている。
うちの事務所は基本的に男性ばかりの為か、部長や支部長の叱責も厳しい。もろ「体育会系のノリ」でしごかれるわけ。
そこがエリートの集団で、営業の男性諸君は眉一つ動かさず、きびきびと返答をして、頭を下げていくんだけど、事務席に居る私は他人が怒られているのにも泣きそうになる始末。
普段温厚なキャラの霧島部長、やっぱりここぞって時にはマジ鬼になるんだもんな~・・・。
今週の大きな締め切りにむけて、うちの事務所の成績がイマイチ振るわないのがその原因。
とはいっても、まだまだ新人の私にしてみたら、そんな、4千万や5千万の保険が、そんな簡単に契約貰ってこれるのかしら、な状態なんだけど・・・。高い買い物よ、やっぱり。
入社2年目の、事務所では若手の青山さんが現在まだ未実働。つまり、1件の契約ももらえてないってこと。月も半分過ぎた今でこれでは確かに今月は苦しい。
部長の顔をしっかりと見つめて、言葉を返す青山さんの横にはきゅうりが立っている。
きゅうりは青山さんの指導担当だったっけ。それで、今一緒に叱責されてるわけなのね・・・。
「やりますばかりで結果がついてこなきゃ意味がないだろうが!いつ1件目持って帰ってくるんだって聞いてるんだよ!」
霧島部長の声が飛ぶ。