トマトときゅうり


 車のヒーターを入れてから、きゅうりが私に言った。

 コートの裾を押さえて乗り込みかけていた私は、つい止まってしまった。

「――――――いえ、大丈夫ですよ、近くの駅で降ろして下さったら」

 すでにシートベルトを締めながらきゅうりが言う。

「近くの駅だろうが家までだろうが、俺にとったら一緒だから」

「でも」

「いいから乗って。それで、住所は?」

 ・・・ご飯代も、出して貰ってるのに・・・。

 さっさと支払われてしまってて、いくら払うといっても聞いてくれなかったのだ。ピザまで横取りした自分を、過去に戻ってハリセンで叩きたいくらいだった。

 その時の余裕に満ちたかわし方を思い出して、無駄な抵抗はやめることにする。どっちにしろ、口でも勝てないのは判ってるし。

 それに、きゅうりと一緒にいれることはまぎれもなく嬉しかった。

「・・・ありがとうございます」

「うん」

 住所を伝えて助手席に座る。

 静かに車がスタートして、夕日に染まっていく街の中を走り出す。まぶしくて真っ直ぐ見てられないから、視線を手元に向けていた。

 ・・・ちょっと荒れてるなあ。最近寒くなってきてるし、ちゃんとこまめにハンドクリームぬりこまなきゃ。とか、この爪の形が気に入らない。とか色々考えつつじっくり両手をみていたら、横から大きな手が伸びてきて、いきなり握り締めたからビックリした。

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