トマトときゅうり


 こんな気遣いを誰にも出来る人なんだったら、きゅうりは本来は優しい人間なんだろう。

 ふだんはやんちゃな顔して隠してるだけで、いろんなとこに目の届く、細やかな人なんだろう。

 この人を好きになったって、報われないのは目に見えてる。

 きっと傷付いて、自分にガッカリしてしまうのが火を見るより明らかだと思ってしまう。

 でも、私が、私でも出来ることは――――――――・・・・


 さっきまでのような楽しい時間を作っていくこと。面倒臭い私のために、きゅうりが嫌な思いをすることがないようにしていくこと。

 眩しい夕焼けに向かって走る車の中、私が努力する方向が見えた気がした。

 報われなくても。

 好きなんだったら、彼のために努力しよう。

 そしてきゅうりの想いが届いて彼女が出来たとき、笑って祝福できるように頑張ろう。

 好きになってしまったから、もう傷つくのは仕方ない。

 だってこればかりはどうしようもないのだ。

 でもその傷を浅くするために、そしてきゅうりにとっても居心地良い付き合いにしようとしたなら、楽しい時間を作ること、それが一番だろうと思った。

 信頼できる事務になって、仕事で支えること。いつでも笑顔で受け答えして、その上で存在は地味にすること。


 どんどん消えていく夕日を見ながら、きゅうりの隣で、私はそう決心した――――――


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