トマトときゅうり


 ・・・素敵。

 思わず近寄って、ウィンドー越しにうっとりと見つめる。体に吹き付ける風の冷たさも全然気にならなかった。

 目が放せない。このドレスなら、ちょっとおめかしの必要がある時だけでなくて、普通にも着れるよね・・・。カジュアルな足元でかためて、髪の毛のアレンジを軽めにしたら。

 うーん・・・・可愛い。

 心が、このドレスを欲しいといっていた。まさにときめいていた。

 でも、でも、でも。

 衝動的に買ってしまうにはあまりにも現実的な私の理性が大声でストップをかける。

 いつ着るの?これを買っちゃったら、美容院にもいけなくなるし、晩ご飯だって家に帰って食べるハメになるよ。どこに着ていくの?誰のために着るの?

 頭の中で聞こえてくる私の声に、少し、興奮が冷めてきた。

――――いつ着るの?・・・着てどこかにいく予定は入りそうもない。

――――どこに着ていくの?・・・今のままだと、家で試着して自己満足に浸るだけ。

――――誰のために・・・・・そっかあ、私、彼氏もいないんだった・・・。

 もう一度、ドレスを見上げる。

 手の届かない素敵な物。


 ・・・手の届かない素敵な人。



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