トマトときゅうり


 ため息をついて、後ろを向いた。

 あのウキウキした気分はどこかに行ってしまっていた。

 自分のご褒美なんて、言える身分じゃない。少なくとも、今は、まだ。

 真っ暗な空に目を向ける。
 
 ・・・黒い世界だ。だけど―――――――・・・

「だから、星は光るんだから」

 口に出した言葉は白い息を伴って、夜空に吸い込まれていく。

「・・・だから、月だって光るんだから」

 今は背を向けているこの素敵なものだって。

 私は、きっと手に入れてみせるんだから。

 悲しい時は、無理にでも笑いなさいって、昔もよく言われた。色んな人に、色んなシチュエーションで。

 口角を上げる。足を踏み出す。

 私は、光り輝く街へと歩き出した。



 ―――――――いつか、私も素敵になる。





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