トマトときゅうり


 ほとんど酔いを見せていない部長は、人懐こい笑顔でコップを傾ける。

「君たちの頑張りのお陰でうちの事務所はもってるんだ。今年もご苦労さんだったなあ。ありがとう」

「いえ、楽しく働かせて頂いてます」

 仲間さんや他の女の子がニコニコして部長と話すのを、嬉しい気持ちで眺めていた。

 私、ラッキーだったな。いい職場にめぐり合えて。本当諦めなくてよかった。どのような形であれ、こうして働きに出ることで出会える素敵な出会いの結晶が、ここにはあるのだ。

 そおっと店を見回す。

 きゅうりは前のほうの座席でチーム員と談笑していた。酔っているのか興奮か、頬が少し赤らんでいて、なんだかとっても色っぽい。

 いつもよりリラックスしているようで、柔らかい笑顔で話している。

 ふと、きゅうりが顔を上げた。

 バッチリ目があって、心臓が激しく音を響かせた。ううううううわあ、どうしよう・・・と動揺していたら、きゅうりは置いていたビールのコップを目の高さにまで持ち上げて、乾杯の仕草をした。

 あ。

 私も急いでコップを取り、会釈しながら持ち上げる。

 口にするビールは苦いけど、心の中に甘いものが広がった。


「・・・さてと、あらかた食べたし、部長にもお偉方にも挨拶したし。私はお先に失礼するわね」


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