トマトときゅうり


 額に手を当てて笑う私を青山さんがじっと見ている。

 ・・・なんだろ。あれ?私なんか変なこと言ったっけ?

 青山さんの表情が読み取れなくて、少し不安になりながら鍵を取ろうと手を伸ばしたら、その手を掴まれた。

「―――――ん?」

「・・・・瀬川さん、彼氏いるの?」

 唐突な問いに、頭が止まる。

 ・・・何だろう、急に。青山さん、えらく真剣な顔をしてる。ここはおどけて寂しい女を演じとくべき?マトモに答えるべき?

 一瞬悩んだけど、この何かが始まりかけているような空気が嫌で、マトモに答えることにした。私、早く帰らなきゃ。

「彼氏、はいません」

 でも―――――――――

 『すきな女の子はいる』


 きゅうりの言葉が頭の中でこだました。


 ・・・でも。

 好きな男の人がいる。




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