トマトときゅうり
胸の奥がまたつんとした。
そんな私の様子には気がつかずに、青山さんは私の言葉を待っていたとばかりに早口で言った。
「じゃあさ、オレと付き合わない?」
私の手を握っている青山さんの手は熱かった。
冷え切って、誰もいない静かな会社のエレベーターホールで、そこだけが炎をまとっているみたいだった。
私は掴まれた手をじっと見て、そのまま動けなかった。
「彼氏が今、いないんなら。オレ・・・瀬川さんが、好きだ」
青山、さん。・・・でも、私―――――――
呟きは言葉にはならない。ひたすら床を見詰めたままで動けずにいた。真っ直ぐに私を見ていた青山さんは、かなしばりにあったみたいに固まる私をぐいと引き寄せた。
「・・・っ・・・」
ハッと息をのむ。
青山さんのスーツとコートからは、外の冬の匂いがした。
抱きしめられて、頭の中はパニックになってきた。
酔いも一気に吹っ飛び、やっと正気に戻った私は青山さんの腕の中でジタバタする。
「・・・・あの、あのあのあの!青山さ―――――」
やっと声が口から出た、と思ったら、私を抱きしめていた両手がするっと離れて、肩に回った。
そして私が呆然としている間に。
青山さんがキスをした。