トマトときゅうり
郵便局までおつかいに行って帰社したらお昼休憩の時間だったので、お弁当を持ってそのまま屋上に行った。
一人で食べる気楽さと、単に経済的な問題から弁当持参組の私は、天気のいい日は屋上でランチと決めている。
多忙で派手で付き合いの多い保険会社の人間が滅多にこない、私だけの空中庭園なのだ。
鼻歌まじりに屋上のドアを開け、貯水塔の裏に回る。
明るい太陽の光と気持ちのよい風に、つい空を見上げてにこにこと微笑む。
この大きな貯水塔、ここが日陰になっていて、ちょうど腰かける段差まであるのだ。
回りこもうとして、ハッと足を止める。
・・・先客だ・・・珍しい――・・・
いつもの私の指定席に、男が座っていた。
町並みを見つめていたようなのに、私の足音を聞いて振り向いた。
切れ長の瞳が私を捉える。
げっ。
きゅうり!!
「あれ、トマト?どうしたんだ?」
驚いた顔で立ち上がる。さっきまで見下ろしていたのに、もういつものように見下ろされる。風に黒髪が乱されてそれが目にかかるのを手で払った。
すぐに私の手元に気付き、きゅうりは少し笑った。