トマトときゅうり
押し付けてくる唇はひんやりとしていて
冷たいホールに座り込んでいる足は痺れてきていて
両肩を掴む彼の手が痛くて
キスをされているのに、私は赤面もせずにただ目を見開いていた。
きゅうり。
コップを上げて乾杯のしぐさをする、さっきのきゅうりが目に浮かんだ。
やっと、手が動いた。
「・・・やっ・・・」
両手で青山さんの胸を押して、顔を背けた。
「あっ・・・あたし、は・・・」
必死で言葉をひねり出す。言え、言わないと。ちゃんと、言わないと。
「――――――・・・好きな、人が、いるんです・・・」
私の乱れた呼吸だけが響くホールで、しばらく時が止まったようだった。
「・・・オレとは、無理かな?」
青山さんが小さく言った。
「今は他のヤツが好きでも、付き合っていくうちにオレを好きになるかもしれない。そういう風には、思えない・・・?」
・・・いつか、きゅうりではなく、青山さんを・・・?