トマトときゅうり
口の左端をあげて笑う、やんちゃな笑顔のきゅうり。
何回か見た、てとも優しい目元のきゅうり。
大きな手。広い背中。すたすた歩く、あのリズムも。上司の話を聞いてる時の真剣なまなざしも。とがった鼻も、ハスキーな声も。
全部、忘れて、青山さんを好きになれる?
私のことをトマトって呼んで笑う、彼を―――――――――
顔を上げたら、少し青ざめた、悲しい表情の青山さんがいた。
「・・・すみません。でも、そこまでは、想像出来ないんです・・・」
すっと視線を外して、表情が影に隠れて見えない。
悲しそうな、でも明るい声で、青山さんが言った。
「うん、判った」
立ち上がって、埃を払い、事務所の鍵を拾い上げて施錠する。その青山さんを、私はまだ座り込んだままで見ていた。
「ごめんね、いきなりあんなことして」
振り返って、言った。
「・・・あ、いえ」
「立てる?」
手を出してくれたけど、気がつかない振りして自分で立ち上がった。青山さんに何とか笑いかける。
「あの、嬉しかったんです、それでも」
「え?」
「私を・・す・・好きだといって下さって、ありがとうございました。自分に自信がとてもないから・・・有難い言葉なんです」