トマトときゅうり


 鍵はオレが返しとくからと言う青山さんにお願いをして、店の前で別れ、一人で駅に向かって歩き出した。

 完全に酔いもさめて、更に冷え切った体に木枯らしが厳しい。

 ・・・ヤバイ。このままだと風邪決定だ。おふろ、入らなきゃ。

 ヒール音を響かせながら歩いていて、そこで気付いた。

「あー・・・私、あれ、ファーストキス・・・」

 恋愛経験のちーっともない私のファーストキスは、ドラマチックではあったかもだけど、いい思い出にはなりそうもない。

 思い出すのは、冷たい唇とその気持ち悪さ。ううー、キスってあんなに気持ち悪いものなの!?

 皆、なんであんな行為にきゃーきゃー言うんだろう・・。キスって気持ちいいことなんだと思ってた。全然違った。

 私が特に好きではない男の人が相手だったからなのかな?

 ううう~ん・・・。

 とにかく、23歳でファーストキス。冷たい床の上で、嫌いではないが好きでもない同僚と。

 ・・・ああ、青山さんには悪いけど、これ、マジへこむ。

 それでも、こんな私が人に好かれるなんて・・・結構奇跡かも。それは単純に、本当に嬉しいのだ。

 私でも誰かに影響を与えられるんだと思って。


 ・・・報われない恋。青山さんも、そして私も―――――――――――




< 123 / 231 >

この作品をシェア

pagetop