トマトときゅうり
鍵はオレが返しとくからと言う青山さんにお願いをして、店の前で別れ、一人で駅に向かって歩き出した。
完全に酔いもさめて、更に冷え切った体に木枯らしが厳しい。
・・・ヤバイ。このままだと風邪決定だ。おふろ、入らなきゃ。
ヒール音を響かせながら歩いていて、そこで気付いた。
「あー・・・私、あれ、ファーストキス・・・」
恋愛経験のちーっともない私のファーストキスは、ドラマチックではあったかもだけど、いい思い出にはなりそうもない。
思い出すのは、冷たい唇とその気持ち悪さ。ううー、キスってあんなに気持ち悪いものなの!?
皆、なんであんな行為にきゃーきゃー言うんだろう・・。キスって気持ちいいことなんだと思ってた。全然違った。
私が特に好きではない男の人が相手だったからなのかな?
ううう~ん・・・。
とにかく、23歳でファーストキス。冷たい床の上で、嫌いではないが好きでもない同僚と。
・・・ああ、青山さんには悪いけど、これ、マジへこむ。
それでも、こんな私が人に好かれるなんて・・・結構奇跡かも。それは単純に、本当に嬉しいのだ。
私でも誰かに影響を与えられるんだと思って。
・・・報われない恋。青山さんも、そして私も―――――――――――