トマトときゅうり

a.s.a.p.


 週末が明けて、出勤した時、自分でも驚くほど普通に青山さんに接することが出来た。

 実はあの夜、無事に家にたどり着いてから熱々のお風呂に長いことつかって悶々と色んなことを考えて、その中には私を好きだと言ってくれる人を大事にするべきか・・・ぶっちゃけその方が気持ちは楽だし、安定する・・・みたいな不実なことも考えてしまっていて、自己嫌悪で嫌になったりしたのだ。

 本当に断ってよかったの?なんて、何回も自分に聞いていた。

 ・・・でも。

 今青山さんと付き合ったって、それはもう色んなことで、きゅうりと比べてしまうのは目に見えている。

 待ち合わせて、ああ、これがきゅうりだったら、なんて失礼なこと思うくらいなら、始めない恋愛の方がいいと思った。

 好きでも嫌いでもない同僚・・・。まさか、私がこんな問題を抱えるなんてね。ちょっとは会社になじんできた証拠では、あるんだろうけど・・・。


「あ、おはよう、瀬川さん」

「おはようございます、青山さん」

 青山さんは、風邪引かなかった、と声をかけてくれた。真っ直ぐで、優しい人だと思った。

 事務所の鍵をお願いしたお礼を言う。大丈夫だと、手を振って出かけていった。

 もう今年もあと2週間ちょっとだ。

 今年、正社員にはなれなかったけど、ちゃんと職場があって、仕事はやりがいもあって、ちゃんと居場所になってよかった。

 微妙ではあったけど、ファーストキスもしちゃったし・・・。うーん、あれは省こう。やっぱり微妙だ。


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