トマトときゅうり
殆ど出払って人気のない営業部を見回す。
きゅうりは居ないのかな。今日、朝礼でてたかな。
「あ、瀬川さん、仲間さんが探してたよ」
ホールから出てきたキタジイが話しかけてきた。
「あ、喜多川さん。おはようございます。判りました、戻りますね」
にっこり笑って、自席に戻る喜多川さんを見送って、私も事務ブースに戻る。
「仲間さん、お探しですかー?」
本日もゴージャスな仲間さんが席から振り返って手招きした。ちょっと見惚れた。
つやつやの栗色の長い髪。ぷるんぷるんのお肌。長い睫毛(ちなみに、自前よ、付け睫毛じゃないわよ!って言われたわ、そういえば)が高い頬骨に影を落として、骨格の美しさを際立たせている。
「ね、瀬川さん、今週の木曜日結婚式の2次会行くって言ってなかった?」
「あ、はい。大学時代の友達の結婚式の2次会に呼ばれてます。いいましたっけ、私?」
仲間さんは艶やかに微笑んで、手で肩をぶつ真似をした。
「そう、言ってたわ、食堂で。でね、さっき支社の人事にいる同期から届いたんだけど、これ使うかな、と思って―――――」
仲間さんが差し出したのは、付け睫毛キッドと真紅のリップグロスだった。
支社に勤める事務たちは、出すのも受け取るのも自分達の仕事だからと、その立場を利用して仕事とは全く関係のない私物まで社内便を使って送ったりすることがある。