トマトときゅうり
うううー、嬉しい。
しかし、素朴なって・・・。ようするに何もしてないってことよね、そのまんま。別に褒めてないのかも。
その日はそのまま会社で過ごしたが、私の変化に気付くのはいずれも女性ばかり。男って・・・とちょっと呆れる。ま、でもたかが一事務員の私、そりゃあそうか、と思い直したけど。
結婚するのは大学でゼミが一緒だった里香とその優しい彼氏。二人は高校生のころからの付き合いで、大学卒業後に結婚すると決めていたらしい。
大学でも皆が羨むお似合いのカップルだった。お互いを思いあうのが端からみていてもよく判って、その信頼感に驚いたものだった。
家族の都合で、結婚式には珍しい木曜日になったので、友達は皆まとめて夜の2次会への参加をお願いしたと聞いた。
二人の晴れ姿を見るのも勿論楽しみだったが、卒業以来の大学の友達に会えるのも嬉しくて、招待された秋ごろから心待ちにしていた。そして、近づいた今週は仕事中もそわそわしっぱなしだった。
一度用事で事務ブースに来たきゅうりに、「なんか、お前体が浮いてる感じがするぞ。何に興奮してんだ?」と聞かれ、「結婚式なんです!」と嬉しく答えて、「お前の?」と突っ込まれて初めて主語を抜かして話していたことに気付いたくらいだ。
そして、悔しいながらも結婚どころか彼氏と呼べる人もいないと認めるハメになって、大いにからかわれ、ムカついた。
「くっ・・・楠本さんだって、彼女はいないって仰ってたじゃないですか!」
と噛み付くと、ムカつくぐらい綺麗な顔でにやりと笑って、
「俺は、作らないだけ。仕事に夢中で、誰かと付き合ってる暇なんかなかったんだよ」
と言ったから、つい、本気で聞いてしまった。