トマトときゅうり


「案外、器用じゃないんですね。恋も仕事もではないんですか?」

 きゅうりは肩をすくめて、呆れた顔を作る。

「営業って仕事は休みもあるようでないからな。どっちも中途半端になって、成績は上がらねーわ、彼女には泣かれるわ、じゃ良いことは何もないだろ」

「・・・はあ、そうですね。やっぱり彼女は休日にはそばに居て欲しいものでしょうしね」

 そう呟いて頷くと、きゅうりはカウンターから身を乗り出してにやりと笑った。

「男だって、居てやりたいんだよ。好きな子の喜ぶ顔は見たいもんだろ」

「でも、休めない?」

「この仕事で結果出したけりゃあな。だから俺は、仕事で自信がつくまでは彼女は作らないって決めてた」

 ふーん。・・・でも何か、作ろうと思えば楽勝って感じの言い方に反感を覚えた。何でこんなに偉そうなの、この人。

 だからちょっと突っ込んでみることにしたのだ。意地悪そうな顔を作ってつんと顎を突き出す。

「で、このままずーっと一人で過ごして、寂しい老後を過ごすわけですね」

 するとまたにやりと不敵に笑ったきゅうりが言った。

「仕事に自信がつくまではって言っただろ。今ならもう、仕事も恋も大事に出来ると思うぜ。俺は、作らない。トマトは、作れない、だろ?」

 カッチーン!


< 129 / 231 >

この作品をシェア

pagetop