トマトときゅうり


 答えもまたず、私の可愛いあすぱらベーコン巻きは奪取されてしまった。

「あー!!・・・アスパラ・・・」

 がっかりすると、きゅうりは実に満足そうに笑っている。

 うう・・・気持ちの問題で食べれないのではなく、物理的にお弁当は自分で食べられなさそう・・・全部取られてなくなるのが予想出来る。

 穏やかな昼食は諦めて、ひっかかっていた言葉を確認する。

「あの・・・さっき、俺を呼びに来たって言ってませんでした?電話の予定とか会議とかあるんですか?」

 指先についた油をぺろりと舐めて、きゅうりは苦笑する。

「ああ、違うんだ」

 話を聞こうときゅうりの方を向いたのがいけなかった。

 指先を舐めている口元につい視線が吸い寄せられる。

 ・・・・すっごい綺麗な口元・・・・歯並びも、形のいい唇も、ついでに長い指も全部。神様が力をいれて作りましたって感じだ。男のくせに・・・。私が同じことしたって、こんな色気は出ないよね・・・。

 つい、自分を卑下する思考に入りかけて頭を振る。

 いかんいかん、自分に自信を持てなくても、せめて自己評価を低くするのは止めようと、就活の間に決めたんだった。

「・・・おーい、トマト」

 呼びかけられてハッとする。

「は、はい?」

「ぼーっとしてんな。聞いてたか?・・・・そんなに見とれるほどだった、俺が指舐めるの?」

 きゅうりがにやりと笑う。


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