トマトときゅうり


 エレベーターのボタンを押しながら、きゅうりが聞く。

「・・・・途中から、大人の世界に」

「ん?」

「・・・判らなかったら、いいです。スルーして下さい」

 一度落ち着いた赤みがまたどんどん出てくる私をじっとみて、きゅうりが、ああ、と呟いた。

「・・・・成る程ね」

「・・・・・」

「つーか、大人の世界って、言い方がトマトだよな~」

 あははは~と軽やかに笑って、私を覗き込んだ。

「どこまで詳しく話されたんだ?」

 ボッと顔から火が出たのが判った。もう・・・もう私、酸欠で・・・倒れる。

「・・・・死んでも言えません・・・」

 ゲラゲラと隣で笑うきゅうりの後について、フラフラとエレベーターに乗った。

 ・・・もう私、消えたい。

 がっくりと肩を落とす私を見て、きゅうりが言った。

「仲間も朝から何話してんだよ。まるで男だな」

 苦笑している。

・・・みんな、普通の顔色で対処できるんだー、あの話題。うそー、どれだけお子ちゃまなのよ、私は!

 顔が上げられなくて、ペットボトルを握り締めたまま俯いていた。

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