トマトときゅうり
全身をマグマの塊みたいにして突っ立っていたら、きゅうりは手を離して二人に向き直った。
「長谷寺さん、私は公私混合はしないって以前にもお伝えしましたよね。お客様とは付き合わない、それに第一彼女がいると、ちゃんとお伝えしたはずです」
お嬢さんは目を大きく見開いてきゅうりを見詰めている。
「彼女の存在なんて信じない、と仰るから、連れてきたんです。―――――青山」
突然呼ばれて、ハッとした顔で青山さんはきゅうりを見た。
「・・・はい」
「・・・そんな訳だ。悪かったな。会社での都合もあるから、付き合っていることは秘密にしてたんだ」
「・・・いいえ、謝ってもらう必要はないです」
青山さんは、辛そうな笑顔で私を見た。
「瀬川さん、オレ、困らせちゃったみたいだね。・・・それに、色々ごめんね」
胸が痛んだ。
青山さんの、声に、表情に、とても申し訳ない気持ちで一杯になった。
噛んでいた唇を離して、しっかりと目を見る。
「・・・いえ、私こそ、本当にごめんなさい。でも、あの時、嬉しかったのは嘘じゃないです」
気持ちをもらえたこと。好きだって言ってくれたこと。・・・すこし、私に自信をくれたこと。
笑顔をたくさんくれたこと。