トマトときゅうり
もう一度かすかに笑って、青山さんはきゅうりに言った。
「これ出して、帰社報告して帰ります」
「おう、お疲れさん」
きゅうりは手をあげて応えた。
青山さんは長谷寺さんに頭を下げて、駅に向かって歩いていく。一度も振り返らなかった。
長谷寺さんは、白い顔をもっと白くして、立っていた。
握ったこぶしが震えているのが判った。
「こんな・・・こんなの茶番だわ。あたしは信じない。この人は楠本さんの彼女なんかじゃない。あんたのところの契約なんか、全部解約してやるから」
それを横目で見て、きゅうりは深くため息をついた。
「・・・それは残念です。長谷寺様には、私と青山がお詫びに伺いますので」
キッと顔を上げて、彼女が叫んだ。
「父にはあたしから話すわ!あんた達が、どうやってあたしをバカにしたかも全部、全部話すから!」
・・・・ああああ~・・・どうしよう・・・。どうしてこんな事に。
私はただおろおろして交互に二人を見つめていた。
契約は、また2ヶ月しか経っていない。この間1回目の保険料が口座から落ちたところで、今解約されてしまうと、担当者である青山さんには厳しいペナルティが課せられてしまう。