トマトときゅうり


「はい、夏の大きい締め切りの時には、当たってみたけどまだ留学から帰ってなかったと、青山さんが言ってました」

 思いついた興奮で少しばかり声が裏返る。私はお箸を片手に握り締めたままで話した。

「でも、でも今回は、まだ帰ってないかもと思ってそこは当たってないかもしれません。青山さんから長谷寺さまの名前を聞いてませんし、確かに今日中は難しいでしょうけど、うまくいけば、お父様と娘様と狙えるかもと・・・」

 きゅうりは最後まで聞いてなかった。

 大きな体が目の前をぱっと通り過ぎる。

 屋上入口のドアに向かって走り出しながら、きゅうりが身体を捻って叫んだ。

「ありがとう、トマト!!弁当も、ご馳走さん!!」

 私は座ったままで化石状態になっていた。

 今、きゅうりが見せた。

 その、笑顔に。


 硬直した。



・・・・・・・・・そんな優しげな顔、反則だあああ~・・・・。





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