トマトときゅうり


 風邪薬もちゃんと飲んで、嵐のあとみたいになった外見をどうにかしようと鏡の前に座る。

 まずは髪を丁寧に梳かした。折れて絡まっているどうしようもない毛先は切り、ビタミン剤を口に放り込む。唇は蜂蜜を塗ってラップでパックした。

 それからこれ。冷蔵庫できんきんに冷やしたスプーンを、瞼に押し付ける。

 ・・・・・くうううううう~!!きくーっ!!

 一人で両足をばたつかせてしばらくのたうちまわった。

 これはとっても痛いけど、速攻で腫れがひくのだ。就活でうまくいかなくて夜通し泣いた時も、翌日の面接はこれをやって乗り切った(ま、落ちたんだけどね)。

 あまりの痛さに転がっていると、布団の下の携帯が振動していた。

 ディスプレイを見ると、会社の番号。

 恐々、ボタンを押す。

「・・・はい、瀬川です」

『あ、仲間です。ごめんね瀬川さん!しんどくて寝ているところに!』

 仲間さんの声が飛び出てきてホッとした。きゅうりからだったら、どうしようかと思った。

 まだ若干音がうるさい鼓動を無視して返事をする。

「あ、さっき起きたとこですので大丈夫です」

『うん、声も朝よりかなり戻ってるわね。ごめんね、聞きたいことがあって―――』

 昨日私が処理した契約についての問い合わせだった。今日出勤するつもりだったから、メモも何もかかずに置いてあったんだった、そういえば。

 説明をして、処理をお願いする。


< 202 / 231 >

この作品をシェア

pagetop