トマトときゅうり


 持っていた封筒をまた全部落とすかと思った。

 それくらい強烈な笑顔で、きゅうりがこっちを見ていた。

 煌く瞳に捉えられて、私は動けない。


 本当に、心臓が止まるかと思った。


 またもや真っ赤になって立ち尽くしていると、きゅうりは何でもなかったみたいに私を促した。

「ほら、コンビニ、いくんだろ?俺もついてくよ」

「へ?は・・・ええ?きゅ・・でなくて、楠本さん、部長と面談は?」

「俺は今月はとっくに終わってるから、面談の順番は最後でいいんだ。説明は青山がするだろうし。いいから、来いよ」

 スタスタと歩き出してしまう。

「あ、はいはい。行きます」

 急いで後を追う羽目になった。

 さっきの笑顔ショックで、まだ顔はアッチッチだし、もうこんなみっともない顔でついていきたくないよ~、と心の中で泣き言を言う。

 でも青山さんがうまくいったというニュースは、それだけで私のテンションを十分上げてくれていた。

 よかった、ちゃんと力になれてたんだ。

 こういう形で、後方援助も出来ることがあるんだ。

 事務だってまだまだ新米だし、私は頑張らないといけないなあ。

 熱をもった頭を、10月の夕方、爽やかな風が吹いて冷ましてくれる。

 決意も新たに、きゅうりを追って会社を飛び出した。


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