トマトときゅうり
その内面倒臭くなって、放っておくことにした。人の噂も75日、まあその内消えるだろう、と思っていたのだ。
「ケーキ、みなさん食べましょう、切ってきますから」
丁度3時も近いしと、席を立って給湯室に行く。
わーい、嬉しいな、このロールケーキ食べたかったんだよね~。るんるんで給湯室を開けると、目の前に大きな背中があってビックリした。
「ひゃあ!」
「・・・瀬川」
ハスキーな声が耳を掠める。
ハッと顔を上げるときゅうりがいた。
今週は研修やら大会やらでほとんどきゅうりに会うことはなかった。今朝も朝礼に出てなかったし、まさか給湯室で会うとは。
・・・ってか、何でこの人ここでコーヒー飲んでるの。自席に行きなさいよ、自席に。心の中で突っ込みながら、ケーキを捧げ持って部屋に入る。
「楠本さん、お疲れ様です」
私が入れるように身体をよけて、きゅうりは少し笑った。
「おう、久しぶり」
ロールケーキをシンクに置いて、やかんに水を入れる。
「本当に久しぶりですね、大会と研修お疲れ様でした」
狭いので、すみませんと声をかけてやかんをコンロにかける。身を引いてからきゅうりを見上げたら、コーヒーカップを持ったまま複雑な表情でこちらを見ていた。