トマトときゅうり


 手から滑り落ちたカップは幸いなことに割れてはおらず、素晴らしい反射神経でカップを抑えたきゅうりを睨みつける。

「もう、楠本さんまで!」

「え?」

 落ちたカップを元に戻し、自分のカップをシンクに置いたきゅうりが間抜けな声を出す。

「やめてくださいよ~・・・最近みんなそんなこと言ってからかうんですから・・・。もう、本当にうんざりしちゃう」

 また顔が赤くなってしまうではないの!あーあ、カップ割れなくて良かった。またこれをネタにされるところだった。

 お茶の準備をやり直す。

 ここ最近事務所に居なかったきゅうりまでもがそんなことを。言いふらしてるの誰よ~!!

 私の剣幕に少しばかり身を引いて、きゅうりがぽつんと呟く。

「・・・・・違うのか?」

「やめてくださいってば!大体青山さんにも迷惑ですよ。あの、長谷寺様の契約のお礼にって、一度ランチをご馳走して下さったんです。それを大井さんにみられて・・・」

 ぐちぐち言っていると、大きな手が伸びてきて、頭をぽんぽんと叩かれた。

「・・なーんだ。トマトにも春が来たかって思ったのにな」

 きゅうりがにやにや笑っている。

 もう、バカにして~!!

 私はキッと長身の男を見上げて睨む。

「うう~!私に失礼ですよ、楠本さん!」


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