トマトときゅうり
あまり男性に縁のない人生を送ってきた私の前にはやたらと綺麗な男の人の笑顔。
当然、私は更に真っ赤になった。全身で真っ赤になった。
それを見て、何とこの男は大爆笑のあげく、「お前、トマトで決定」と言い残して立ち去ったのだ。
――――――――・・・・へ。
・・・何、今・・・あの人、何つった・・・?
当初の目的である缶ジュースを買うというのは、これで完全に頭の中から吹っ飛んだ。
私はその場でしばらく化石と化していて戻るのが遅れ、教育係の事務員さんを大変心配させた。
「瀬川さん?大丈夫?顔、赤いけど・・・」
「あ、はい。大丈夫です、遅れてすみません」
・・・し、信じられない・・・。ヨロヨロと机に手をつく。
男に触られた。いきなり顎を掴まれた。しかもしかも・・・・赤面を、大爆笑された・・・・・。
それだけで、以後3日間は思い出しては憤死しそうになったのだ。
以来、私は心の中でこの男を「きゅうり」とよんでいる。
あのきゅうりだ。お野菜のきゅうり。シャキシャキしてて、ちょっと使うのが遅れたらぐんにゃりと水になってしまう緑色の長細い物体。
面と向かっては言えないけれども、心の中ではそれ以外で呼ばないと自分に誓ったのだ。