トマトときゅうり


 こんな風にうだうだ考えていてマトモでなかった私は、それから1週間、きゅうりを避けまくった。

 まるで、会わなければ彼を忘れられるかのように。

 少なくとも彼と面と向かって話しをしなければ、醜く赤面することはないわけだし。

 彼が新契約を入れたり手続きの為に事務のカウンターに立ち寄る時は、トイレだったり無理やり勝ち取ったおつかいだったり電話中にしたりで、話さないようにした。

 結構露骨なのは判っていたけど、何が何でもの精神で避けまくった。

 あのハスキーな声が、こっちに向かってると思うだけで顔が赤くなる。仲間さんがいぶかしく思うくらいには都合よく、きゅうりを避けた。

 そんなことをしまくっていて、ある日、ついに仲間さんに突っ込まれた。

「ねえ、瀬川さん、楠本君と何かあったの?」

 仲間さんの問いかけに、飲みかけていたお茶をつまらせて咳き込む。

「っ・・・ごほっ・・・」

「あら、ごめんなさい、まさか図星だとは」

 ニコニコ笑って背中をさすってくれる仲間さんの前で、肩を落とす。

「・・・そんなんじゃないです・・・」

 仲間さんは眉をあげた。

「ん?だって、瀬川さん最近楠本君避けてない?あれは私の思い過ごしじゃないとおもうけど。楠本君も、それでか居心地悪そうにしてるし・・」

「・・・からかわれるのが嫌なんです」

 ぼそりと呟く。それは、嘘ではない。


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