トマトときゅうり


 ああ・・・・・・いい声。

 無駄にいい声。

 もう、ほっといて欲しい。

「アポがあるんじゃないんですか?面接士さんの手配は済んでますよ」

 私はキッと彼を睨みつけて言った。

 
 保険会社の男の営業は、大体がエリートコースにのっている。

 一般家庭は所謂「保険のおばちゃん」か「保険のお姉さん」がすることになっていて、男性は数年現場で営業をしたらすぐ管理職コースに乗るってことも、会社に入ってから知った。
 
 そして私は事務員で、保険契約に必要な病院の手配、面接士の手配、契約書の受理、顧客管理、事務所の受付なんかをやっている。

 後方で営業のサポートをしているので、営業の忙しさは知っているつもりだ。

 そしてきゅうりはバリバリのエリート。

 手帳にはいつもアポがいっぱいのはず。

 はよ、仕事にいけ。

「あ、ありがとう、あの手配、トマトがしてくれたんだ」

 にっこり微笑んで私の顔を覗き込む。

 ああ・・・またやられた・・・・。

 身体の底からあつくなってくるのを感じながら私は動けない。

 こんなに近づくと・・・・近づくと・・・・。

「あ、なったなった。本当に真っ赤だな~!」


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