トマトときゅうり


 9時13分前。

「あ・・・・・良かった、終わった・・・」

 ため息をついて、凝り固まった肩をほぐす。

 ああ~・・・・疲れた。

 書類を片付け、引き出しに鍵をかけて、机に突っ伏した。

「・・・・・お腹すいたあああ・・・・」

 よく考えたら、今日はこの仕事の山を片付けるために、お昼も短縮してたんだった。そりゃあお腹もすくよね~。いつもなら晩ご飯終わってる時間じゃん。

 鞄を手に、立ち上がる。

「よし、帰ろうっと」

 事務周りの電気や鍵を確認して、営業部に挨拶をしてエレベーターホールに出る。

 肩は凝っていたしお腹も空いていたけど、仕事をやり終えた充実感が体中を駆け巡っていて気分が良かった。

 晩ご飯のメニューを考えながら、ビルを出る。

 ざざーっと風が吹いて、今日はおろしている長い髪をかきあげた。

 11月に入って、朝晩の気温は確実に下がってきていた。トレンチコートの前をかき合わせて、つい呟く。

「ううーっ・・・寒い・・」

 歩き出したところで、声をかけられた。

「瀬川さん!」

「へ?」

 振り返ると、青山さんが近づいてくるところだった。


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