トマトときゅうり


 重そうな営業鞄をもっている。ニコニコ笑って言った。

「何でまだここにいるの?5時退社じゃなかったっけ?」

「青山さん、お疲れ様です」

 隣においついて、青山さんは息をついた。走ってきたみたいだ。

 鼻の頭が赤くなっている。

「仕事が溜まってて・・・霧島部長に許可いただけたので、残業してたんです。青山さん、今、帰社ですか?」

「うん、そう。今日は何かうまくいかないくて。あっちも駄目、こっちも駄目で、ちょっと凹んで戻ってきたとこなんだ」

 確かに、疲れた顔してるかも・・・。暗くてよくは判らないけど。

 長めの髪はいつもちゃんとセットしてあるのに乱れてるし。うまくいかない・・・きっと、それも色々あったんだろうな。

「大変でしたね。まだ事務所も何人か残られてますよ」

 明かりがつくビルの窓を見上げて、青山さんはため息をついた。

「・・・来月分、皆必死なんだよな・・」

 また風が通って髪を揺らす。ううう・・寒い。立ち話には厳しい季節になってきた。

「じゃあ、私は帰りますね、お疲れ様でした」

 ぺこっと頭を下げて、駅のほうへ歩き出そうとしたら、また呼び止められた。

「-――――瀬川さん!」

「はい?」

「あの・・・良かったら、晩ご飯一緒しない?まだ食べてなければ」


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