トマトときゅうり


 惹かれていると判った人から告白されたと思ったら、「冗談」だといわれたこと。

 きゅうりがくれたここ7ヶ月の色んな言葉を思い返して、そこに好意のニュアンスを嗅ぎ取ろうと必死になって、くたくたになる夜から朝。

 なのに面とむかって話せなくなってしまった自分。

 あのからかわれて怒っていた時間が、今では遠く、きらきら輝いて見える。

 思考にハマって、少しぼーっとしていたみたいだ。

 青山さんが前から心配そうに見ていたのに気がついた。

「大丈夫?疲れてきた?」

 時計をみると、もう10時半を回っていた。明日も仕事だと思い返し、一瞬で現実感がよみがえる。

「ああー、もうこんな時間なんですね。あまり面白くてつい・・」

「お、本当だ。もう俺今日は会社戻るの、やーめた」

 青山さんも時計をチェックして、ため息をついた。

「大丈夫なんですか?帰社しなくても」

 トレーにごみを集めて立ち上がる。

「うん、部長も今日はもういないから。ゴミ、ありがとう」

 トレーも片付けて、並んで店を出た。

「瀬川さん、家どこ?遅くなったし、送るよ」

 改札に向かって歩きながら青山さんが言うから、ビックリした。

「え、いえいえ、大丈夫ですよ。うち駅前なんで、暗い道もないし」

「いや、でも・・・」

「大丈夫です。友達と遊んだりしたら、いつももっと遅いんだし」


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