トマトときゅうり


 笑って言うと、しばらく迷ってるようだったけど、判った、と言ってくれた。

 その時、何でこんなことを言ったのかは、私にも判らない。

 ただ、流れるように、言葉が口から出てきたのだ。

「あ、青山さん、今日、長谷寺さんのお嬢さんが事務所においでになりましたよ」

 きびすを返しかけてた青山さんの体が止まって、え?と振り返った。

「長谷寺さんのお嬢さん・・・ああ、先月の契約に関して何かあったのかな?」

 心配そうな顔で聞いてくる。

「私も用件伺ってないので知らないんですけど・・・。楠本さんに会いにきたって言ってました」

 途端に、青山さんの表情が晴れた。

「あ、成る程・・。楠本さんか。そうだろうなあ~」

 一人で合点している青山さんに突っ込まずにはいられない。

「え、え、何ですか?一人で楽しんでないで教えて下さいよ」

 まだニヤニヤしながら、青山さんが話す。

「楠本さん、凄い格好いいから、女性客が夢中になっちゃうことがよくあるんだって。他社にかけてるのも全部あなたに回すから、私と付き合って、とか迫られることも多いみたいだよ。本人はほとほと困ってるみたいだけど、口の悪いヤツなんかは、ルックスで契約取れりゃ苦労がなくていいよな~とか言うやつもいてさ」

 はあ、と私は頷く。

 やっかみってわけね・・・。まあ、それはどこの世界でも多少はあるんだろうけど・・・それにしても、色んな意味で災難かも・・・。格好いいとかって、本人にとってはいいことばっかじゃないんだ・・・。


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