トマトときゅうり


 青山さんは続ける。

「そういわれるのが嫌だからと、もうずっと女性客の契約は取り扱わないようにしてたみたいだよ」

 え。本当に?それは・・・凄いかも。

 青山さんの話を聞きながら、一瞬今まで扱ったきゅうりの新契約を思い返す。確かに・・・男性ばかりだったかも。契約者も被保険者も。

「俺は中身で仕事してるんだって言いたいって。でも今回、俺の件でついて来てもらっちゃったからなあ~・・・。やっぱりあのお嬢さん、そうだったのか~。楠本さんばっか見てたもんな~契約内容ちゃんと判ってんのかな、とか思ったよなー」

 身振り手振りで契約を貰った当日、いかに長谷寺様のお嬢さんが楠本さんに擦り寄ろうとしていたのかを説明する青山さん。

 聞いてるうちに、私はどんどん息苦しくなってきた。

「外国で慣れてるからかな~、やっぱり積極的だよね、あのお嬢さん。楠本さんは何回も、担当は青山ですって言ってたけど、あなたが担当者になってって食い下がってたもんな~。ま、俺が貰っちゃったんだけどね」

 へへへ、と頭をかいて笑った。

 そしてふと私の表情に気付き、眉を寄せる。

「・・・瀬川さん?大丈夫?」

 実際は大丈夫じゃなかったけど、無理やり笑って、頷いた。

 青山さんはちょっとほっとしたみたいに、私に問いかける。

「瀬川さん、見た?可愛い子だったよね、確かに。いつもは楠本さん、下心のある女性客には絶対携帯の番号とか教えないって言ってたけど、お嬢さんの勢いに負けて教えてしまってたもんね。結構好みだったのかなー」


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