トマトときゅうり
えええ~!?と声が重なる。笑わないってなによ!?それで営業出来るの!?
どんどん自分達の目をつけた格好いい営業の名前が出てきて、きゃあきゃあうるさいこと。皆顔を赤く染めて興奮状態だ。その内「やかましい」と外から怒られるんじゃないかとヒヤヒヤした。
うちの支社が管轄する地域は広く、北、中央、南、それと東とそれぞれ呼ばれる事務所がある。そのいずれにも、うちと同じ男性専用のエリート育成事務所があって、それぞれに、そこを代表する名物とされるエリート営業がいるらしい。
私はバイトについてまずそれを事務仲間に教えて貰った(というか、言い聞かされた)のだ。
うち、北事務所の楠本。
中央、支社の役割もしている大きな支部には稲葉。
南、ここも大きな地域を持っていて支社並みの大きさである支部には高田。
この3人が人呼んで「3大イケメン営業」らしい。いずれもタイプは違うがそろいも揃って美男子で、それぞれが独特の魅力と高い営業成績で周囲を圧倒している(らしい)。
それに、彼らほど美形ではないにせよ、愛嬌と成績の素晴らしさにおいては右に出るもののいないと噂される、南の平林。彼を足した4人が、この支社の大会での壇上表彰常連の営業達だった。
事務のアルバイト女子達が顔を赤くしながら興奮して話しているのは彼らのこと。私は隅っこの壁際で、興味深くそれを聞いていた。
ほおほお、稲葉さんて人は垂れ目なのね、とか、高田さんて人は長髪なの?とか。スーパー営業って呼ばれるには、つまりどのくらい成績がいるんだろ・・・などと考えたり。
美男子かあ~・・・きゅうりみたいなのが他にも二人もいるってことだよね。うわ~、保険会社って、顔で選ぶのかしら・・・。いやいや、まさかね。彼らが好成績なのには、何か人知れず努力をしてはるに違いない!
一人でアレコレ考えては拳を握り締めたりしていた私だった。