トマトときゅうり


 「ねー、北事務所の・・あ、瀬川さん!ねえねえ、聞きたいことがあったの~」

 声が聞こえて振り返ると、やってくるのは支社勤めの水野さん。電話はよく話すけど、彼女も『今日初めて会った』人だ。

 電話でのハキハキした印象そのままの肩までのワンレンスタイルの美人だった。

「はい?」

 慌てて微笑みを作る私に、彼女はアッサリと聞いた。

「楠本さんて、彼女いるの?」

 ストレートの直球にちょっとふらりとする。

 ああ・・・このくらい、私も素直に物が言えたら・・・と考える。

 彼女の声が聞こえてた範囲にいた女の子だちがわっと集まって、耳を傾けたので、つい、数歩後ろに下がってしまった。

「・・・えーと・・・。あの・・ごめんね、知らないの」

 ええー!??とまた声が上がる。

「嘘!?誰も知らないの?そういう話しないの?仲間さんも知らないのかな!?」

「・・・仲間さんからも、きゅ・・・でなくて、楠本さんに彼女がいるとは聞いたことないけど・・。いないとも、聞いてない」

 はああ~・・・とお次は盛大なため息。皆聞き上手なこと。

「えー、どうなのかなあ~。今居るんだったら諦めるけど、居ないんだったらトライしてみたいな~」


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