トマトときゅうり
私は決して身長が低いわけではない。トマトなんて呼ばれてるのは真っ赤になるからってだけで、背が低くて丸い体をしているわけではないのだ。
・・・まあ、痩せているとはお世辞にも言えないが・・・。それに、きゅうりからしたら確かにチビだろうしさ。
普通に女の子の中にいれば高いと言われる166センチの身長も、男ばかり集められているこの場所では殆ど役に立たなかった。
・・・前が見えない。
次々と現れる黒いスーツの壁をよけてよけて進み、何とか部長のもとまでたどり着けた時には息も切れていた。
「きっ・・・霧島部長・・」
振り向いて、私に気付いた部長が、よう、と手を上げる。
「瀬川さん、お疲れ様だったな。今日はもう手はいいらしいし、事務所のほうも大丈夫と言っていたから、あとは上がってくれていいぞ」
「あ、はい。判りました。一度戻らなくていいんですか?」
「うん、このまま直帰してくれていい」
それでは、と帰りの挨拶をして、部長と別れた。
・・・時間、空いちゃったな。まさか、2時すぎに仕事が終わると思ってなかった。
でもお昼がまだで、お腹も空いたし、取り合えずなんか食べて―――――。
これからの予定を考えながら、エレベーターを使わず階段を降りる。
会場が3階だった為、一般のホテル利用客に考慮して、保険会社の人間は階段を使用するようにお達しが出ていた。
1階のフロントロビーを抜けて、玄関へと回る。曇り空の今日は、都会の風景もかすんで見えた。そこここに散らばって談笑する営業職員の間を通り抜けて外へ出た時、入口横の喫煙コーナーにいた、同じ事務所の営業マンに声をかけられた。