トマトときゅうり


「あの子?――――――長谷寺様ですか?」

「そう。担当者は青山だって言っても、何のかんのと理由をつけては会いにくるんだ。お客様だし、要望があるのに会わないわけにはいかない。クレームになったって面倒臭い。だからしばらくビジネスライクに相手をしてみたんだ。商売以外で興味はない、と色んな手で伝えたはずだった。・・・でも諦めてくれないらしい」

 目を閉じて、椅子に深くもたれ掛ったきゅうりをみつめる。

 ・・・・ビジネスライク・・・・って、さっきみたいなの?あれを何回もされても、やっぱりグングン来るんだ・・。ちょっと、それが出来るのが羨ましいかも・・・。

 それにしても、営業って大変だなあ・・・。うーん、考えさせられる・・・。

 きゅうりの様子に力を借りて、思い切って言葉にしてみた。

「・・・あの、楠本さんは、彼女をどう思ってるんですか?」

 目をあけて、こちらを見た。ちょっと口角が上がって、苦笑の表情になる。

「お客さんだ。それ以上でも、それ以下でもない。それに厳密にいえば、俺の客ではないんだしな」

 そうだよね、厳密に言えば、担当の青山さんのお客さんだもんね。あの2件の契約の成績は、きゅうりと青山さんで折半したわけではない。

 所謂タダ働きで、そのお客さんに気に入られて追っかけまでされてんのか、と思うとやっぱり気の毒だよね・・。

 きゅうりが彼女のことを何とも思ってないと判ると、自分でもヤバイだろ~と思うくらいにテンションがアップしたのが判った。

 ・・・・ゲンキンな私・・・・。

「あの方、可愛いじゃないですか」

 意地悪心で言ってみる。


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