トマトときゅうり
一人になって自分を落ち着ける時間が必要だった。
手を洗って、鏡にうつる自分を眺める。
胸元までの長さはあるが、就活の時のままのそっけない黒髪。多少形を整えるくらいでほとんど自然なままの眉毛と、日焼け止めに粉をつけただけの肌。化粧と言えば、あとはマスカラをつけるくらいだ。
・・・・すごくブサイクではないけど、やっぱり特別可愛くもないよね。
冷たい風ときゅうり効果で赤くなったほっぺたを叩いてマイナス思考を振り払う。手首につけてたシュシュで髪をうなじでまとめて、お手洗いを出た。
化粧室からフロアに出て、窓際のカウンター席に座るきゅうりに目をやり、思わず小さく声が零れた。
――――――――なんて、絵になる人なんだろう。
長い足を無造作に前に放り出して、背もたれに体を預けている。
視線を窓の外へむけ、椅子に凭れかかって完全にリラックスしているようなのに、体の内側から力が発散されているのが見えるみたいだった。圧倒的な存在感を放ってそこにいた。
・・・あんなのが横にいたら、完全に私の存在なんか飲み込まれるだろうな・・・。自嘲ぎみに呟いて、つい見惚れてしまった自分を戒める。
もう、無理無理・・・無理だわ、私。
無視なんて出来るわけないじゃん。あんな目立つ人。
でもこれはきっと、恋の魔法にまだかかってるからなんだろう。恋心を失くせたら、きっと―――――――。
潤みがちな瞼を頑固に無視して歩き出した。
「・・・お待たせしました」