トマトときゅうり


 彼女はいますか?

 胸がドキンと大きく鳴った。微かにボールペンを持つ指先も震えている。

「・・・彼女、いますか?」

「ここ長いこと、居ない」

 ここ長いこと、居ない。頭の中でリフレインしたその言葉が、ぐるぐると回っている。居ない。今、付き合ってる彼女いないんだ・・・。そうだよね、だから私をからかって遊ぶことだって平気で出来るわけだし。彼女がいないんなら――――――

「好きな子は居る」

 きゅうりが付け加えた言葉に、ズキン、と胸に鈍い痛みが走った。

 そろそろと隣を振り返る。

「・・・楠本さん、好きな女の人いるんですか?」

「俺が男を好きになると思ってんの?」

 真剣になってしまった自分が恥ずかしくなるような返答に、思わず力が抜けた。

 がっくりと虚脱する。

「・・・いや、思わないですけどお~・・・」

「俺に好きな子がいるの、変?」

「・・・・変じゃないですけど、ちょっと意外です。楠本さんなら、ぐいぐい押しまくって速攻で彼女にしてしまいそうですけど。片思いとか、物凄く似合わないような・・・」

 私の言葉が意外だったらしく、きゅうりは首を捻った。


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