《短編》空を泳ぐ魚
「…アンタ、魚嫌いなの?」


シャケ弁当をつつく俺を、清水はマジマジと見つめた。


そして不思議そうに首を傾けながら聞いてくる。



「…嫌いな弁当買うかよ。
好きだから食ってんの。」


「…変なの。」



変なのは、間違いなく清水の方だろう。


言ってることが、あんまり理解出来ないし。



「…つーかお前、マジで親とか何も言わねぇの?」


「さぁね。
てゆーか―――」


「プライベート、だろ?
良いよ、もぉ。」


清水の言葉を遮り俺は、言うであろう言葉を先に返した。


言葉を取られてしまった清水は、ムスッとした顔を向けてきて。


女王様もこんな顔をするんだ、と。


他人事のように思ってしまった。



「…あたし、帰るわ。
眠くなったし。」


「…泊ってっても良いんだぞ?」


「…まだ言ってたの?」


やれやれと言った顔で清水は、食べなかったコンビニ弁当の入った袋を手に持ち、

まだ食事中の俺を横目にさっさと立ち上がる。



「…気ぃつけろな。」



“送るよ”とは、さすがに言えなかった。


俺も一応副担任だし、誰に見られるとも限らないから。


静かに清水は、俺の部屋から出て。


バタンとドアの閉まる音が響く。



多分俺は、今日初めてまともに清水と話したんだろうけど。


余計にわからなくなった、不思議な女。


だけどまだ、刻まれたように体には、彼女のぬくもりが残る。


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