《短編》空を泳ぐ魚
「清水。
今回の小テスト、頑張ったな。」


答えを教えても80点だったけど、まぁいつもよりは良い点数だ。


それに何より、黙って小テストを受けたことだけでも進歩だと思う。


採点したテストを返しながら俺は、他の生徒に向けるものと同じ顔で笑う。



「教える先生が良いんだろうな。」



そう、俺だけど。


言う俺に、清水は馬鹿馬鹿しそうに“実力じゃない?”とだけ返し、

さっさと自分の席に戻ってしまった。


お前の実力なんて、セックスで勝ち取っただけじゃん。


なんてことは、やっぱり言えなかったけど。



「次、谷川ー。
お前、スペルミス多すぎ。」



悲しい顔もしてられなかった。


俺、一応仕事中だしね。


それから、教科書の続きと受験対策に、テスト対策。


生徒達の必死そうな顔を見渡しながらも、気になってしまうのはいつも、清水の顔。


また空ばかり眺めてるけど、何がそんなに面白いのだろう。


俺にとってはそんなもの、

こんな授業と同じくらいに変わり映えのしないつまらないものにしか見えないけど。



「じゃあ103ページの2行目ね。
ココ直訳しちゃうと、違うからな。」



何で俺が英語教師になったかと言うと、大学で英語を専攻してたからで。


他が苦手だし、割と得意分野の大学に入っただけのこと。


俺でもつまらなかった学生時代において、

だけど清水ほどのヤツは居なかった。


空ばかり眺めてるってことは、あながち“宇宙飛行士”も嘘ではないのかもしれないな。


でも、頭が良いやつでも、人よりかなり勉強しなきゃなれないって、わかってんだろうか?



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