《短編》空を泳ぐ魚
「セナー!
帰ろうぜー。」


今日は出張に行ってしまった担任教師の代わりに、

俺がホームルームをそつなく終わらせた。


帰りの号令が終わった瞬間、待っていたのだろう“白石誠”が叫んで顔を覗かせた。


清潔感のある名前に一切似合うことのない、4年目に突入した制服に、

何度言っても止めないイマドキありえないほどの金髪と、抱えたギターケース。


この男と一緒に居る時の清水は見つけやすいけど、

俺としてはあんまり良い気分はしない。


当てにならない噂によると、この二人は付き合ってるらしいけど。


そんなことより一番気になるのが、この男ともヤってるのか、ってことだ。


てゆーか、名前呼んでるあたり、俺より上なのが気に入らない。


そんな俺の気持ちにまるで気付いていないのであろう清水は、

呼ばれてさっさと教室を出ていってしまった。


そして始まる、下世話なトーク。



「…白石、怖ぇよなぁ。
ギターケースの中に実は武器が仕込んであるって聞いたんだけど。」



お前、よっぽど暇なのか?


てゆーか、そんなヤツ漫画でしか見たことねぇよ。



「アレじゃね?
清水のSM道具の収納!」



ははは。


お前、生徒じゃなかったら殺してるぞ?


よくもまぁ、そんなことばかり思いつく脳みそがあるのだと、感心してしまう。


そんなまるで“いつも通り”の光景に呆れ、さっさと俺も教室から出た。


もうそこまで迫って来てる夏を前にした西日が、名残惜しそうに傾き始めて。


長く伸びた校舎の影に、放課後を心待ちにしていたような生徒たちの声が響く。


大した変化もないように繰り返すだけの日々。


清水をどこかに連れてってやれば、そんな日々は変化したりするのだろうか?



< 20 / 35 >

この作品をシェア

pagetop