《短編》空を泳ぐ魚
「…牛とか豚とか鶏って結局、人間に食べられるために飼われてる家畜でしょ?」


イキナリ意味不明に話し出した清水の言葉を、

頭の中で整理しながら聞いて行く。


首をかしげる俺に清水は、“何でわかんないだろう”とでも言いたげで。



「…あたしは、魚が好きなの。」


「うん、すっげぇ知ってる。」


「…魚はね、自由に泳いでんの。
食べられるためじゃないのに、人間の勝手で獲ったりするから、それを食べるアンタは嫌いなの。」



つまり、魚は獲って食べたりせずに、泳ぐ姿を見てろと?


で、魚が嫌いだから食べない白石は、“良いヤツ”なんだって?


本当に、不思議なことを言う。



「…家畜はね、学校と一緒なの。
目的を押し付けられて、わかってないのにそれでのうのうと生きてるの。
どーせ食べられるために育てられたんだから、廃棄されるより食べてあげなきゃ可哀想じゃん。」



だからお前は、肉ばっか食べる、って?



「…わかったよ、大体。
もぉお前の前では魚食べねぇから、俺のこと好きになってろよ。」


「…ギャグ?」


「…ギャグ言ってる顔してねぇだろ。」


「そだね。」


不思議そうに俺を見つめる清水に、

何度目かわからない告白はいつか届くことがあるのだろうか、と。


ちょっと悲しくなってしまった。



「今度絶対、水族館連れてってやるから!な?」


「…アンタ、全然わかってないね。
そんな水槽見るなんて、あたし可哀想で泣いちゃうかもしれないってのに。」



“水槽”って、これまた夢もないような言い方だな、おい。


余程清水は、“自由に泳ぐ魚”が好きらしい。


あんな大きな水槽ですら、彼女にとっては許せないのか。


< 30 / 35 >

この作品をシェア

pagetop