《短編》空を泳ぐ魚
「…ごめん、嘘だ。」


「嘘かよ!」



あぁもぉ、俺、泣いちゃいそう。


でもまぁ、名前呼んだあたり、ちょっとは進歩したんだろうなぁ。



「…何やってんの?」


無意識のうちに清水を背中から抱きしめるのは、もぉ癖なのかもしれない。


そんな俺に、相変わらずの怪訝な顔で冷たい言葉が投げられる。



「据え膳食おうとしてんだけど。」


笑顔で言う俺に、清水は最高記録なのかと思うほどの、長いため息を吐き出した。



「…やっぱアンタ、嫌いだわ。」


「えぇ?!セナ!」


「馴れ馴れしいって。」


瞬間、清水が引っ張るのは、俺の耳で。


人間、耳は鍛えられないって知っててやってるんだろうか?


俺が清水と付き合うのも、その不思議な脳みその中を理解するのも。


まだまだ先なんだろうな、と。


涙目になりながら、悲しくなってしまった。



「…こんなに好きなのに…」


「てかあたし、今日ニモ観ようと思ってたんだ!」


思い出したように清水は、すっかり元気になって帰り支度。


未だに魚より下とか、どーなんだろう、俺。


今日は復讐のために、オール魚料理にしてやろうと決意。


養殖なら文句も言えまい。


颯爽とスキップを混じらせながら俺の部屋を出ていく清水の後姿。


まぁ、その顔が嬉しそうだから、結局許しちゃうんだけどね、俺。


< 34 / 35 >

この作品をシェア

pagetop