《短編》空を泳ぐ魚
好きか嫌いかで言えば、よくわからないけど嫌いじゃない。


ただ、気付いたら清水を無意識のうちに探している自分が居ただけのこと。


職場に居たのが清水で、みんなで言うところの“社内恋愛”と何が違う?


元々教師なんてなりたくてなったんじゃないんだから、仕方ねぇだろ。


だけど俺たちの間に、まともな会話なんて一切なかったから。


別に、話すほど意気投合してるわけでもなければ、

会話するほどの話の内容が見つからないだけ。


ただ、アイツをもっとよく知りたいと思ったし、

やっぱり俺は男だから、アイツに触れてみたいとも思う。


ある意味俺は、かなり危ない教師なのだろう。


だって、それを一切悪いことだと思わないんだから。


好きになった。


それだけのこと。


他人の恋愛に口を出す権利なんて、誰にもないのだ。




「…そろそろチャイム鳴るし、席つけよ。」


教壇まで行き俺は、出席簿を広げた。


清水の名前のところに、何個目かわからない斜線を引く。



「…居ないの、清水と他に誰?」


「池内早退したよー。」



池内、ね。


ハイハイと、同じように斜線を引く。


居なくても、こんな斜線ひとつで表わされるんだから。


何が“人権尊重”だと言えるのだろう。



初任にして3年生の副担任。


大して偏差値が高いわけでもない学校で、別に尊敬されてるわけでもない俺。


3年生の副担任なんて、結局雑務ばかり押し付けられて。


“仕事”とは言っても、息抜きに煙草も吸えないんじゃ、ストレスは溜まる一方だ。


本当に、世の中世知辛いと実感するばかり。


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