《短編》空を泳ぐ魚
部屋に連れ込むなり先に唇を奪ったのは、多分俺の方だったと思う。


舌を入れる俺の動きに合わせ、清水は時折声を漏らして。


“ヤバいな”と思ったのは、ほんの一瞬だったろう。


気付いたら、押し倒していた。


エンコーの事実なんて、ぶっちゃけどっちでも良かったけど。


生徒たちが言うように、ヒールで踏まれることはなかった。


白い柔肌に舌を這わして。


感じたようにピンクに火照った肌に、きっと俺は虜になっていたんだと思う。


初夏の夜の、ほんの過ち。







「…アンタ、それでも教師?」


煙草の煙をくゆらせながら、清水は俺に言葉を投げる。


情事の所為で乱れたシーツが、先ほどのことが嘘ではないと証明していて。



「…吸うなよ、教師の前で。」


「…アンタ、あたしに“教師”とか言えないじゃん。
まぁ、お互いプライベートだし、関係なくない?」


そう言って清水は、最後の煙を吐き出しながら煙草を消した。



「…で?
お前本当は、エンコーとかしてんの?」


俺の言葉に清水は、初めて噴き出したように笑って。



「…してるわけないじゃん。
でも、それも面白そうかも♪」


そう言って、俺に顔を近づけた。



「…お金取らない代わりに、今度のテスト問題教えてよ。」


“あたしが言ったらアンタ、相当ヤバいことになるよ?”と付け加える顔が、

非常に怖い。



「…恐喝してんの?」


聞く俺に、清水は何も答えなくて。


ため息を吐き出しながら俺は、自分の煙草を咥えた。


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