彼の事情、彼女の…。
風すらも感じない今日は陽の光の当たる所ではポカポカと温かく、もうすぐ冬の季節が訪れるなんてとても信じられない陽気だった。
「――――――あー…、あのさ…。」
後ろを歩いていたサヤカが不意に言い出した。
「ん?」
振り向くと、俺と顔を合わさず顔だけ横を向けたサヤカが居た。
「佑奈たちの事…さ、ありがと・・・ね。」
ほんのりと頬をピンクに染めて言うサヤカが…カワイくて仕方ないんですけど…。
「どーいたしまして。サヤカチャンの頼みだしね?」
かわいいサヤカを襲いたい衝動を抑えて、ニッコリ笑ってみた。
「あー…、うん。ま、それは“御礼”って事で。」
“それ”はこの缶コーヒーの事だろう。
「ん。ゴチソーサン。」
サヤカは、俺と2人の時はこんな風に少し素直になる。
何時ものツンツンしたサヤカだけじゃなくて、今みたいに照れた顔や、自然な笑顔が見られる時もある。
…だからこそ、サヤカから目が離せなくなるんだ。
一緒に居る時間が長くなるほど、俺はサヤカに堕ちていく。