彼の事情、彼女の…。
結局、ケントは1時間目の数学の途中でクラスに入って来た。
…難しい顔をして…。
「お、若狭か。坂井先生から聞いてるぞ。大変だったな。席に付け。」
「…はい。」
数学の担当は俺達の担任・小柳(こやなぎ)。
ケントとはるかが保健室に行った時点で保険医の坂井 望(さかい のぞみ)ちゃんから、話が行っていたらしく、遅刻したケントに小柳はねぎらう様に言った。
でも、ケントは難しい表情を崩そうとはしない。
大切な人が傷ついて、平気な男は居ない。
本当は、今でもはるかの側に居たいんだろう。
心配…だよな…。
もし…。
ケガをしたのがサヤカだったら…。
俺はどうなっていたか…。
いや、考えたくないな…。
俺は、全身が“ブルリ”と震えるのを感じた。