彼の事情、彼女の…。



「・・・・。」


“彼女”は、私を見降ろしたまま動かず、何も話さない。


「やっと見つけた。アンタの事探してたんだよね…。」


私はそう言いながら、ゆっくりと階段を上る。



「・・・・。」



でも、“彼女”は黙ったまま。



「話…したくてさ。尋のこと…なんだけど。」



“尋”の名前を出した時・・・“彼女”がピクリと反応したのが分かった。




あぁ、やっぱり・・・。




“彼女”は尋が好きなんだ。




「あのさ、今のアンタのままじゃ、尋は絶対振り向いてくれないよ?好きな人に嫌われるなんて…そんなの切ないじゃん。まだ遅くないよ?もう…やめなよ。」



私は、ゆっくりゆっくり階段を上りながら彼女に話しかけた。



逆光で、“彼女”の表情は見えない。



「・・・・。」



“彼女”は何もしゃべらない。



3階まであと一段。



そこで漸く“彼女”の表情が見えた。






< 72 / 95 >

この作品をシェア

pagetop