彼の事情、彼女の…。
「・・・・。」
“彼女”は、私を見降ろしたまま動かず、何も話さない。
「やっと見つけた。アンタの事探してたんだよね…。」
私はそう言いながら、ゆっくりと階段を上る。
「・・・・。」
でも、“彼女”は黙ったまま。
「話…したくてさ。尋のこと…なんだけど。」
“尋”の名前を出した時・・・“彼女”がピクリと反応したのが分かった。
あぁ、やっぱり・・・。
“彼女”は尋が好きなんだ。
「あのさ、今のアンタのままじゃ、尋は絶対振り向いてくれないよ?好きな人に嫌われるなんて…そんなの切ないじゃん。まだ遅くないよ?もう…やめなよ。」
私は、ゆっくりゆっくり階段を上りながら彼女に話しかけた。
逆光で、“彼女”の表情は見えない。
「・・・・。」
“彼女”は何もしゃべらない。
3階まであと一段。
そこで漸く“彼女”の表情が見えた。